10/23日曜日、東京のD&DEPARTMENTで「ロングライフデザインについて 深澤直人×ナガオカケンメイ」というイベントがありました。
定員130名。参加費2千円。一番前の席だったから後ろがどのくらい埋まってたかわからないけど、たぶん満席だったのでは? というくらい人が来ていました。
トークのテーマは3部構成。
- 「ロングライフデザイン」
- 「深澤直人さんが生み出していくデザインと、ロングライフデザイン」
- 「故郷、山梨のロングライフデザイン」
それぞれ感想を整理したいと思います。
第一部 「ロングライフデザイン」
【ロングライフデザインとデザインの原型】
ロングライフデザインと言われているものはいわゆる「原型」として存在している例が多いという。そういった原型を超えようとは思わないで、今の時代にどうやって適応させていくかを考えていくのが無理のない考え方。そうしているうちに原型から原型がでてくるという現象がおきるというからおもしろいですね。
原型のマネをするというのではなく、そのエッセンスを抽出して、今の時代に活かしていくことが重要だということなのでしょう。
そのモノが使われていた時代よりも、時間がたった今に新たに評価されているということもあるようです。そうなると、そのモノを買うということは2つの意味があると考えられるそう。それは以下の2つ。
- 使用者
- コレクター
どちらもそのモノを買うことによって、そのモノが纏っている同じ気持ちをシェアしている、という指摘はApple製品を例に取ると分かりやすかったです。Apple製品を買う人は実際に使用する人、コレクター、どちらもAppleの世界観をシェアしている、と。言われてみると納得ですね、例えばD&DEPARTMENTに来る人は商品を買いにくる、というよりはその気持ちをシェアするために、自分の考えを確認するために、来店しているのでしょうから。
【ロングライフデザインのGOOD DESIGN】
GOOD DESIGN賞の話も印象的でした。深澤さんはジャンルをまたいでデザインの良しあしを語ることの難しさは感じているとのこと。ある分野ではすばらしくても別の側面から見たらまったく別の見え方をするというのはよくある話で、議論が前に進まない。だからこそ同じプラットフォームの上でデザインを語らないとその本質を見失うんだとか。
実際は特別に輝いている1等を決めるのは簡単らしい。みんなが良いというから見つけやすいそうです。難しいのは、埋もれているかもしれないGOOD DESIGNを見つけること。
特にロングライフデザインは難しいようです。使い続けていくうちにその良さが分かってくるデザインが多い分野ですからね。そういうデザインを見抜ける目を持つことは簡単にはできそうにないですが、そんな目を持てるように日々精進です。
【ロングライフデザインってなに?】
ロングライフデザインの考え方では、カタチを変えずにずっと売れ続けるということでもあるが、その時代に合わせて微妙にカタチを変えて売れ続けるということでもあるという。カタチが変わろうともそのモノが持っているエッセンスを抽出してデザインに反映し続けていくことができれば、その取り組みもロングライフデザインといっていい、ということですね。
Appleはまさに思想をデザインに落とし込んで継承し続けているいい例だし、GR DIGITALもバージョンアップのたびに大きな変化はないものの、その哲学を曲げることなくデザインしています。デジタルなものも取り組み方によってはロングライフデザインになりえるということが言えるでしょう。
この「思想を受け継いだデザイン」ができないで迷っている商品は見ればすぐに分かると言っていました。これからの時代に思想をどうやって昇華していくのか、それとも全く新しいものにするのか、カタチにはその迷いが確実に出ていて見れば誰でも感じとれる、と。
これはなんだか納得してしまいます。確かに以前のモデルと比べてダメになったな、と感じたり、単純な焼き直しだな、と感じたりするときってありますからね。それは商品だけではなく、音楽、映画、雑誌などのコンテンツ系も含まれると思います。ずっと使っていきたくて買うものは、商品のクオリティに惚れるということもありますが、その思想だったり世界観に惚れてシェアしたいから買った、という理由もあるはずです。それが付加価値になり少し高価でも納得してしまう、そんなことって、やっぱりあります。
そしていい買い物をしたな、と嬉しくなる気持ちが、ロングライフデザインの楽しみのひとつだと思います。
ロングライフデザインは、思想をどうやって受け継いでカタチにしていくか、時代の流れをどのように反映させていくか、そこがキモですね。
【ロングライフデザインの文化】
海外のロングライフデザインの現状はどうなっているのかという話もありました。
海外の仕事の契約では70年契約なんていうこともあるみたいで、文化的な違いがハッキリとでているみたいです。70年というのは極端な例かもしれませんが海外の企業はロングライフを目指し、日本はほとんどが短期のプロジェクトだというのが現状だそうです。
デンマーク、フィンランドなどの北欧は国としてロングライフデザインを推し進めているけれど、日本は携帯電話なんかの例をみても分かる通り短期間サイクルなんですよね。そこには日本が得意とする電子機器は、テクノロジーが変わってしまうからあえてロングライフにしないという企業側の事情もあるのだとか。なんだかそれも分かりますが、この時代では無理があるような気がしてなりません。戦後のモノがない時代の「どんどん造れ!」っていう雰囲気はすでに通用しないのにな。
企業側の事情をもう少し整理すると、ロングライフデザインとして製品が独り立ちしていくには、最初のスタートアップの時期を資金的に耐えられる企業が後ろについていなければならないそうです。売れなければ事業を停止してしまう企業が多いので、これは想像がつくところですね。ロングライフデザインの可能性がある製品でも市場に存在できなくなってしまってはどーにもならないわけですから。企業も体力的にはとても辛いところでしょうが、ロングライフデザインも考えてほしいものです。
ただ、いろんな商品が市場に氾濫している中からロングライフデザインになる可能性を見極めて買い続ける賢い消費者になる必要もあるし、そんな消費者が少なければ育てていかなければならないでしょうね。
ロングライフデザインを実践することは、日本の経営状況から考えると本当に難しいのだそうです。経営者が変わってしまうと、それまでの担当者も付き合いがある企業もがらっと変わってしまうことも。それは前経営者から企業の思想を受け継がないで、内部の体制を自分の思ったように変えてしまうことが多いのだそうです。それまで付き合いのあるデザイナーも変えられてしまうことだってあるでしょうから、ロングライフデザインは生まれにくい環境とも言えるでしょう。文化的な違いというものがこういうところでもでてくるのですね。
ロングライフデザインの文化を広めていくには、思想を受け継いでいく経営姿勢、それを実現させるデザインの力、育てていく企業の体力、受け入れる消費者の土壌などがうまくかみ合って進めていく必要があるのでしょうね、これは時間がかかりそうです。
ロングライフデザイン、応援します!
D&DEPARTMENTがかかげる「ロングライフデザイン十カ条」なるものがあったのでメモしておきます。なんとなくイメージがわくと思います。
- 修理
- 価格
- 販売
- 作る
- 機能
- 安全
- 計画生産
- 使い手
- 環境
- デザイン
今後の「ロングライフデザイン」に必要なコンセプトのひとつに「お直し」というコンセプトがあげられていました。今後はこの言葉に注目してみるとおもしろいかもしれません。
ちょっとがんばって考えたので長くなりました。
また次回につづきます。
「ロングライフデザインについて 深澤直人×ナガオカケンメイ」 2 |
「ロングライフデザインについて 深澤直人×ナガオカケンメイ」 3 |
「ロングライフデザインについて 深澤直人×ナガオカケンメイ」
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