日本人の文化とデザインの関係をつなげて考えるという試み。
そもそも、デザインは地域、民族の固有文化、伝統の上に成り立ってい
る。そうした文化は過去からの連続した習慣からなり、文化の記憶とし
て今日に伝えられているということを前提に、デザインを読み解いてい
く。
つまり、日本文化を読み解いていくことが、日本固有のデザインを知る
ことになる。
まったく同感で、読み取ったエッセンスをこそ、今のデザインに活かし
ていけば、かなり面白いことになるんだろうと思う。
著者の言葉では以下のようになる。
「歴史から何を学び、何を抽出し、どのように今日に編集し直すかが、
歴史に学ぶことであり、その成果は地域民族を超えて共通の資産である
と考えられる」
インテリアデザインナーの著者らしい言葉がところどころに散りばめら
れている。
「インテリアデザインの本質は、個人の意志をより尊重することで成立
する」
「生活空間をつくるということは形をつくるだけではなく、むしろ人の
生き方の総体をつくり出すことに他ならない」
「モノの背後にある真のモノの性質をとらえたうえで、モノに生命を与
える」
「インテリアデザインは必ずしも見えるものだけを対象としているので
はない。むしろ目に見えない領域、精神内領域にこそ、インテリアデザ
インの本質がある」
など、本質的なことをズバリと書いている。
「デザインが考えなければならない四つの問題」を整理している。
1:個人の固有的価値を尊重できるか
2:地域民族の固有文化の尊重
3:歴史を学ぶ
4:地球規模で考える
それから、いよいよ日本文化の検討に入っていくことになる。
面白いのは、「座る文化」と「立つ文化」ということで比較を行ってい
るということ。
アジア一帯に住む人々は坐ることによって精神の安定を見、思考が活発
になる「坐る文化」。
ヨーロッパの人々は立つこと、歩くことによって精神が安定し、思考が
活発になる「立つ文化」。
この人間の生活、思考の差異が、デザイン、文化に大きく影響するのだ
という。なるほど、この差は決定的なものだと思われる。
さらには「沓を脱ぐ」という行為にも注目している。
この沓を脱ぐという態度は、俗なる世界から聖なる世界への越境のため
の儀礼を表しているそう。
そして日本の家は「聖なる空間」だと考えられてきたことを合わせて考
えると、普段からやっていることにも歴史があり、しっかりと受け継が
れていることがわかる。
こうした文化の積み重ねが、家という空間デザインにも反映されて日本
固有のデザインになっているということが納得できる。
この「家」という空間にも、日本独特の方法が見られると指摘。
それは空間を仕切る方法にあった。
西洋建築では、壁などで物理的に空間を仕切るのに対して、日本では、
生け垣、門、障子、敷居などで認識的に仕切る方法をとって来た。この
感覚は、二つの空間を強固に仕切ることをきらう、といえる。
本来は空間の仕切とは閉鎖を前提とし、視覚的にも。行動を制限するう
えでも、分離を果たすものだ。が、日本人の仕切りの感覚は、閉鎖より
も開口を目的としているようだ。空間相互が交流し、媒介しながら、そ
れとなく分離をはたすという感覚だという。
こうした文化から、一般によくいわれる日本の空間デザインの特徴「水
平の感覚」が説明できる。
対して西洋の建築には「垂直の感覚」を感じる。これには「坐る文化」
と「立つ文化」の違いがよく表れているだろう。
文化からデザインを読み解いていく試みはかなりエキサイティング。
日本独特の空間として茶室の考察も入り、読ませる展開だ。
茶室がインテリアデザインの原点だという。茶室は、今日にも生き続け
ている日本固有の空間観が総結集されていることと、茶の湯という心の
文化を見事に形態化した空間だからだそう。
この思想の形態化というものが、デザインの本質的価値を示していると
もいう。思想は視覚化されることによって、その意味が明確になり、多
く一般に伝達されるというのがその理由だ。
このような方法でデザインを読み解くことを、インテリアデザインばか
りではなく、他分野のデザインでもやっていくことは今後、大切なこと
になるだろうな。
できるかぎり、この方法をマネしてみようと思う。