作品・例題解説や特定のレイアウト分析だけという似たり寄ったりの類書ばかりが目につく分野の本だけど、本書はしっかりと基本を「方法として」とらえて、情報をどのように扱うかという視点がしっかりとしているので手に取った。
こうした本を読むときは、どの本を選ぶかがかなり重要だと思う。個人的には例題解説に終始している本は選ばないように気をつけている。本書のようにデザインを方法として捉える視点は最低限必要だろう。情報論の視点もあったほうがいい。
筆者は、大学のグラフィックデザイン科で15年にわたって指導してきた経験に基づいて執筆されているそう。なるほど、デザインを指導する立場では、デザインを方法化しなければ教えることはできないだろう。だからこそ、本書のように体系化できたわけだ。
その内容は、まずデザインする前の段階から章がはじまる。このあたりが、コンテンツを情報として扱っている証拠。
デザインする前に確認しておくことは以下の4つだ。
1:何を伝えたいかを見極める。
2:メッセージの受け手、読者を特定する。
3:メッセージを届けるためのフォーマットを決める。
4:デザインの基本法則に関する基礎知識。
○強調表現:メッセージの中でどの情報がもっとも重要かを判断し、それを一番に目立たせる。
○コントラスト:訴求力を持たせ、情報を視覚的に体系化したいのであれば、強力なコントラストを使う。
○バランス:ビジュアル要素が筋の通った方法でグループ化され、それらの見かけ上の重さ(ビジュアルウェイト)のバランスを丁寧に調節すること。
○整列:整列方法を一貫させれば、全体がすっきりと整理され、完成度の高いページになる。
○反復:バラバラな要素をひとつにつなぎ合わせ、まとまりのとれたデザインになる。
○流れ:グラフィックと文字を計画的に配置すれば、メッセージを見てもらう順番をある程度コントロールできる。
○イメージ:情報を補足するような適切なイメージがあると、ページの効果が高まる。
○色:ページの読みやすさ、秩序、雰囲気、特徴に配慮して色を選ぶ。
それぞれの項目が解説され、タイポグラフィと日本語組版についての基本知識がまとめられている。
基本的な事項ばかりだが、それが重要だ。
見た目ばかり気にするデザイナーはかなりいるが、情報構造から考え、ビジュアルヒエラルキー(視覚上の階層構造)を構築していくプロセスを意識的にやっているデザイナーはどれほどいるだろうか。
著者が勧めるデザインのモットーとして「KISS」があげられている。「keep it simple,self」だ。一般的にシンプルにすることは難しい。無駄な要素をそぎ落とし、核心をとらえることはコンテンツの情報構造の理解が最低限求められるからだ。そこではビジュアルなものではなく考えることが必要だ。
一度、基本に戻ってみることは経験を積めば積むほど必要なもので、意識しないといけないのだろうと思う。