日常

『日本美の意匠』

日本の美術について考察されている。初版が昭和46年なので、情報の古さは否めないが切り口は楽しめるはず。
まず日本美術の特徴として「装飾と装飾される本体との密接な一致、融合」があげられている。つまりは、本体自身が装飾となって、装飾が本体となるということだ。付加的な装飾をできるだけ排除するかわりに、本体そのものの美化につとめるという、まさに「用の美」。こうして文章として整理されると「用の美」という言葉をすんなりと納得できる。
具体的な例として「土器」があげられている。縄文と弥生の対比が一般的に語られているけど、共通しているのはやはり「用の美」だという。形はかなり違うが、その時代における実用性から導きだされたスタイルだということに違いはないのだ。
日本の造形として「不相称性」がとりあげられた。日本固有の曲線的形態と大陸風な直線的形態が同居している造形だ。前方後円墳に代表されるが、さらに洗練されていくと「直弧文」という意匠になるようだ。これは直線と曲線の組み合わせから成り立っている文様。ただし用いられる直線は、曲線の補助として扱われるという特徴がある。
日本の信仰に関わる美術について、とくに仏像、仏画の考察がつづく。が、ここはデザインの方法が語られているのではなく、解説がメインとなっている。個人的には方法こそを知りたかったのでじっくり読むというよりは一気に流した。
絵画のパートでは、ほんの少しだが方法についてふれている。西洋絵画はリアリズムを基本的な概念とし、東洋絵画はものの精神を写すことが重んぜられたようだ。それは山水画によくあらわれているという。いわゆる風景画は、自然の景をありのままに描写するリアリズムを基本としているが、山水画は、自然の精神を風景のかたちをかりて表現することを目的にしているという。だからこそ西洋の「透視法」という表現形態をとることはなかったのだろう。山水画では「三遠の法」という表現が基本とされたようだ。この方法は人間の自然に対する精神の対応の推移のようだともいう。「高遠」「深遠」「平遠」という3つの視点を同時に描き込むという方法なのだが、それぞれの視点は精神をあらわしているそう。「高遠」は、山を見上げる視点。山が迫ってくる圧迫感が表現され、山に対する崇拝の念が感じられる。「深遠」は、高い視点から山の向こうを覗き込む構図で、主体的に自然に対して働きかけるという意欲を感じる。「平遠」は、視点は近景の山の頂にありパノラマ視をしている。冷静で客観性をもった余裕を感じる構図だ。
最後には、お茶の文化を解説している。方法としてではなく、文化の移り変わりをおって解説している。身分の力関係も影響して形作られて来た文化だから、権力抗争と一体になって動くダイナミズムを感じることができるだろう。
ただ、デザインに活かすような話はなかなかでてこなかった。
全体的に美術の話が多く、タイトルから期待していたデザインの方法についての考察はあまりなかったのが残念。
日本美の意匠 (SD選書 57)