日常

『佐藤可士和の超整理術』


メディア側がなにかと注目しているデザイナーという印象が強かった著者。それはデザイン系雑誌に始まったのか放送に始まったのかは分からないが、知名度があるということは確か。メディアが勝手に騒いでいるだけかとも疑いつつ、いったい本人はどんな方法・考え方でデザインに取り組んでいるのかは気になっていた。
そんな中、本書がかなり売れているという情報が、しかも「ビジネス書」というくくりで紹介されていたので書店で手にとってみた。デザイン系の書籍でビジネス書という流れで紹介されているのは珍しいとも思い興味が湧いたのだった。
さわりの部分だけを立ち読みして驚いた。
デザインに対する基本的な考え方やビジョンに共感がもてたから。
アーティスト的な発想でデザインをとらえているわけではなく、「医師」のようにクライアントの問題を解決するという、原研哉とも共通する考え方をもったデザイナーだった。
「整理」を快適に活きるための本質的な方法論として展開していく内容。デザインも「クリエイティビティあふれる整理術」としている。
具体的には「クライアントの問題点を明確にするのと同時に、磨き上げるべきポテンシャルをすくい上げる」ということを整理術として語っている。コミュニケーションの本質に迫るアプローチをしているということだ。
こういった考え方に共感を覚える。こうした考え方で結果をだしていくことを目指さなければ。
佐藤可士和も場合、一見個性的なデザインのためアーティストっぽく見えるかもしれないが、根本的には「大切なのは自己表現ではなく、どう人々に伝えるか」という考えをもっているようだ。だからこそアイデアもつきることがない。なぜなら答えはいつも、自分ではなく相手のなかにあるからだ。
その方法・整理術のプロセスは大きく3つに分かれていた。
1:状況把握 現状に関する情報を得る
2:視点導入 問題の本質を突き止める
3:課題設定 
こうして課題が見つかれば、問題の半分は解決したも同然というほど重要なステップだという。たしかにこうしてクリエイティブの骨格をつくっておけば、制作プロセスでもブレることはまずなくなるだろう。
整理術の実践として3つのレベルに分けた整理術が解説されている。
1:空間 プライオリティをつけて大切なものを見極める
2:情報 情報同士の因果関係をはっきりさせていく
3:思考 思考を情報化する
まず「空間」については、仕事をする場所をすっきりさせることが、仕事の効率をアップさせることにつながるという信念のもとに実践していることが紹介される。
つまり、プライオリティをつけて、いらないものは思い切って捨てる、ということ。そして、モノの置き場所に定位置を設定する、整理のシステムをシンプルにつくるなど著者が実践している整理術が事例とともに解説されているので分かりやすい。
「とりあえず取っておこう」という「とりあえずモノ」が多い人は実践するべしだ。
「情報」のパートからアートディレクターとしての視点がみえてくる。
情報が氾濫している今、「広告」はいたるところにあるが、実際におぼえている広告はどれほどあるのか自問してみる。するとほとんどの人は思い浮かばないという事実がある。なるほど、広告なんて誰も気にしていない。この事実から広告を発信する側は伝えたいことがたくさんあっても、すべてを伝えることは到底無理だとわかる。ではどうするか。ここで整理術が役に立つというわけだ。
伝えたい情報を整理して筋道をたて戦略的に伝える努力をする必要がある。それを著者は「情報の整理とは、視点を導入して問題の本質に迫ることで、真の問題解決を行う」と表現している。
情報整理のキモは「フィルターの設定」にあるという。自分の視点、ビジョンだ。その視点でクライアントのあるべき姿を正確に導き出し、最終的に最もインパクトのある伝え方ができるようになることをめざす。その方法として「思いこみを捨てて、引いた状況から考える」「マイナスをプラスに視点転換してみる」「迷ったら具体的なシーンを思い浮かべる」などが紹介される。
アートディレクションとは、虚飾のイメージを作り上げるのではなく、情報を確固たる視点のもとに整理して、ビジョンを見つけ出し、構造を組み立ててからデザインするものだというプロセスがよくわかるだろう。
逆からいうと、いかにカッコイイ形をデザインしても、社会に向けて何をアピールすべきか明確になっていないと意味がないということだ。
最後の「思考」パートでは、「無意識の意識化」を取り上げている。思考を言語化していくことがそのプロセスだ。もうひとつのヒントは「他人事を自分事にする」というもの。ひとつのプロジェクトにリアリティをもってあたる、ということだ。
そうしてある程度情報がまとまったら仮説をたてて相手にぶつけてみることだ。その答えが良くても悪くてもデザインの方向性が、わかる。
本書の中で何度もくり返されていることは「問題解決のための手がかりは必ず対象のなかにある」ということ。そして「何のための整理か」という目的をもつこと。
これらは難しいことではなく、むしろかなり基本的なことだ。そういう基本を意識して実践していくことのほうが時にはむずかしい。
少しずつでもいい、意識して実践してみようと思う。