日常

『ブランドらしさのつくり方』

五感ブランディングを博報堂の視点から読み解いた本書。「らしさ」を創り出すためにはどうしたらいいのかを問う。
五感ブランディングとは短期的なインパクトを求めるものではなく、五感を活用して、そのブランドならではの「らしさ」を創造する活動だという認識を思い浮かべながら読むのがいいだろう。現状の追認ではなく、未来を洞察し、あるべき姿としてブランドを再定義・再設計するということだ。
この「らしさ」という言葉からもわかるように、日本にとって最も身近なブランディングの手法ではないかと思う。ブランディングという言葉がないほどの昔から日本は「らしさ」を追求してきているからだ。それは、日本の伝統的な商品やサービスをみればすぐにでも感じ取れる。和菓子や茶道、老舗旅館などを思い浮かべればいい。
こうした日本流のアプローチを「五感ブランディング」という方法として定義し、実践していくことはデザインの世界でもひとつの方法としてかなり有効だと思う。こここそ目指していきたいところだ。
五感をあらためて意識して、ブランドを構築していくのはかなり難しいだろう。これまでは、あまりにも視覚情報に頼り過ぎていたからだ。これはデザイナーとその周辺だけが「五感」を叫んでいても到底実現できるものではない。クライアントの担当者はもちろん、会社全体を巻き込んでいかなければならないからだ。中長期のブランディングと言われる一端はここにある。
作れば売れた時代があっという間に過ぎさったように、見た目がいい、性能がいい、だけでは売れない時代になっている。そこに込められた価値感を性能と共にどのようにコミュニケーションできるかが求められるようだ。
効果絶大な五感だけに、その取扱い方によっては、買う側に不信感を与えかねないので注意が必要だという。なんの根拠もない五感体験では、マイナスの評価が植え付けられてしまうからだ。その影響は長期間続くことになる。
逆に、適切に運用できれば顧客をファン化することができ、その顧客とは長いつき合いになり大きな利益につながる。
五感が拒絶するものはどうしても愛せないが、五感で得た確信ほど、愛着に直結するものはない。
そのことをよく知っている企業同士のブランド要素獲得戦争もかなり激しくなっているようだ。ブランド色の奪い合いは、赤や黄をみればわかるし、CMなどでは企業ロゴのジングルを多様している。ショップは店舗の香りもオリジナル・ブレンド。
ブランドを構成する要素をひとつひとつ点検し整理して目指すべきブランドを確立していくのは並みの努力では足りないだろう。確固たる決意と情熱が必要だ。
その方法はいくつか紹介されているが、より詳細なブランド・ターゲットとブランド・パーソナリティの設定を軸に展開されるものが分かりやすいと思った。
本書でいうブランディングとは、高級なブランド品におけるマーケティングのことではない。一般的に予想される高級品ではなく、顧客が価値を感じるものをブランド、ブランディングの対象になる。
そのブランドでなければ体験できない感覚を設計していくことになるのだが、五感という感覚を扱ううえでのデメリットもあるようだ。五感感覚は、人が過去の体験や記憶を手繰り寄せて解釈するぶん、人によって印象の差が生まれやすいし、感覚器官そのものの鋭敏さにも個体差がある。さらに五感は、五つの完全に独立した感覚ではなく、互いに相互作用を起こしていることを忘れてはいけない。要素に分解して考えるのは必要だが、全体的な視点でシナジー効果を狙うことも重要だ。
当然、データとしてシンプルにやりとりができないので、プロジェクトを進めるのは難しくなる。論理的かつ感覚的なプロセスが必要なのだ。
この「らしさ」デザインは、これからの主流になってくるに違いない。