尊敬するデザイナーの一人である田中一光のエッセイ集。
「無印良品を立ち上げたメンバーの一人」と言ってみると彼の大きさが想像しやすいかもしれない。
過去の著作『デザインの周辺』『デザインの仕事机から』『デザインの前後左右』からの抜粋でテーマにそって並び替えられている。いいとこ取りなのでお得な一冊。
テーマは以下の3つ。
1:デザインの発想
2:デザインの方法
3:デザインの原点
以下は、上のテーマとはまったく関係なく、いくつかの著者の言葉を別の文脈で並べ替えたもの。本書にあるエッセイは時間が掲載されてから時間は立っているけど、本質を射抜いた考え方は、今でも大切なデザインの思考方法なんだろうと感じた。
【日本のデザイン】
日本文化についても、するどい考察があって参考になった。
まず、日本文化の特徴に、コンストラクションに乏しい点があるのだとか。
「日本人のもの創りには直感-燃焼-集約といった作業が、実に短時間に行われる」
「シンプルで集約されたかたちは、日本の伝統のあらゆるところに見ることができる」
というのがその主張だ。
また日本人を見るときの印象も「東洋と西洋の両足で立っているかにみえる」と語る。
「便利であることや、興味を起こすことのできる文化には、少しの抵抗もなく見事に融合、共存させてしまう不思議な能力を持っている」という見方は、今のサブカルチャーを見ればすぐに納得のいくところ。とくにファッションはわかりやすい。
著者は、伝統的に日本のデザインは装飾性と平面生が強く、色でも数色の平面的な色の対比で語ろうとする方に、鋭い感性があり、それらの特徴は、日本のグラフィックデザインに受け継がれていると感じているようだ。
【仕事感】
デザインの仕事についても、やはり独特の考え方が見えておもしろい。
まず「タダの仕事」についてだ。友人、知人関係の「お金にならない仕事」のことをいう。
これには「これは気が楽だ。うまくいかなかったとしても、協力しているという立場がある。おかげで、企業の仕事ならかなり勇気が必要な実験ができる。発想のトレーニングには最高である」と捉えていた。
デザインという行為についてもハッキリとしたビジョンを持っていて気持ちがいい。
デザインというと、ひとつの原型に、色、模様をつけたりすることだと一般的に誤解されていると感じていたそうだ。そうではなく、著者は「より機能に即したものこそ本来のデザインであろうし、無装飾ということも、必然性さえあれば、それはそれですばらしいデザインだと思っている」と書いた。意匠とか図案ではなく「概念」だという。
アートという部分もデザインは含んでいると思うけど、個人的にはこうしたデザインという考え方には賛成。
21世紀のデザインは、個人的な視点からの飾りのない発言に、強い共感を得られることが多くなるだろうと予感していたようだ。消費、使い捨て文明の限界、環境の再生、人間性の復活、これらの要素をはずしたデザインの考え方は通用しなくなるだろうという。
主張をもった知的な内容を、生活感に満ちたやさしい表現で語ることが、この時代にいちばんふさわしいと断言している。
デザインは苦業であってはならないともいう。苦しんだら深みにはまり、追いつめられたら押しつぶされる。鼻歌でも歌いながらやるぐらいが、出来上がりに鮮度がある、と。
これからの課題としては、以下のように語っていたのが印象的。
今、芸術やデザインの面では、それぞれの国や、民族固有のアイデンティティをもった現代的な表現が競われている。東洋と西洋の文化的な交流が横糸だとすれば、この横糸に対する縦糸、強靱な時間軸の対峙を必要とする時代になったようだ。
人間の生活行動を押し広げる先端技術や、近代設備を十分に取り込みながら、この国の風土に似合ったものをつくれないのか。早急に調和の原理を発見しなければならない。