2007年10月7日、ABCにて『UNBALANCE/BALANCE』刊行記念トークショー「クリエイターが語る紙とデザインの可能性」が開催された。
2006年開催の「TAKEO PAPER SHOW:UNBALANCE/BALANCE」のアートディレクションをした秋田寛、デザインジャーナリスト渡部千春、プロダクトレーベル「ROCK,PAPER,SCISSORS」の石井洋二、グラフィックデザイナーのセキユリヲがスピーカー。
仕切りとしては、書籍執筆もした渡部千春。デザインジャーナリストという肩書きを掲げているだけはあり、切り出す視点は明快だったと思う。
当然、書籍の題名は「TAKEO PAPER SHOW2006」からきている。
プロジェクションされた写真を見ながら、「TAKEO PAPER SHOW2006」参加デザイナーである石井とセキの作品に対する考え方を聞いていくというのが大きな軸になっていた。
今回のトークショーでは、来場者に特製紙見本帳がおみやげとして事前に配られていたため、話にでてくる紙を実際に触りながら確認しながら進められたのがワークショップ的でおもしろかった。
スクリーンに映し出される写真だけでは、なかなか作品の良さやイメージが伝わりにくい、やはり実際の紙を触ると「実感」としてイメージが広がるのがわかる。
見た目におもしろいグラフィックというのもあるだろうけど、やはり紙の質感からくる情報を含んでこそのデザインだ。
ここにデジタルにはない紙の強さというものがある。
紙がもつ質感や模様といった触覚情報もデザインの要素として使えるというアドバンテージは、デジタルメディアが氾濫する今だからこそ活かしていきたい。
展示のアートディレクターとして秋田が気をつけていたことに「色」があった。
色はヒトの感覚に強い影響を与えるため、展示会場は白黒で統一したそうだ。基本的に色があるのはデザイナーの作品ということになる。今回おみやげにもらった紙見本も白黒。書籍も白黒。
秋田は色を多用するデザインを得意にしているだけに、禁欲的なデザインワークだったそうだ。
確かに色使いで感覚はかなり制御されてしまうから、素材感を強調するには白黒という選択になるのだろう。
こうした繊細な感覚は個人によって微妙に違うから、自分の感覚を信じることがまず大切なんだとか。そのためにもおみやげ紙見本を自分の感覚にしたがって分類し直すのがいいとアドバイス。この紙見本、展示・書籍と同じように「パリパ」「ふんわり」「スケスケ」「ツルツル」「ザラザラ」という感覚の紙に分類されている。
さっそくパリパリに入っていた「OKキャッスル」をツルツルに移動・・・したら、すでにツルツルにも「OKキャッスル」があった。なんだ、やっぱりそうか。まあ、ひとつの軸で分類できるほど単純なものは少ないんだろうな、この「OKキャッスル」もパリパリでツルツルなわけだし。
いろいろな紙に触れて自分の感覚を研ぎ澄ませていこう。紙だけじゃないほうがいいな、きっと。
もうひとつのおみやげ、紙の様々な側面を展示している「特種製紙」の展示ブースを教えてもらった。
かなり参考になるそうなので時間をつくって見にいこう。
この展示に向けて作品をつくるルールとして「クライアントを想定する」ことを考え出した秋田寛は、さすが。そこには「デザインはアートではない、機能するものだ」という信念が伝わってくる。
そして、「UNBALANCE/BALANCE」というタイトルに見られるように、分母にバランス、分子にアンバランスという解釈も納得できるものがある。バランスさせる技術があってこそアンバラスさせることもできる。格があってこその破格だし、型があるから型破りなこともできるのだ。
こうしたメッセージこそ受けとらないといけないな。