2008年8月6日、夕方から東京ミッドタウンのデザインハブでセミナーがあったのでいってきた。九州大学が感性に的を絞った学部を新設することを記念したもの。
ユニバーサル・デザインで有名な赤池学の熱い語りが印象的だった。
赤池学のユニバーサル・デザイン定義は、以下の10個を考えているらしい。
1:セーフティー(安全性)
2:アクセスシビリティー(接しやすさ)
3:ユーザビリティー(使い勝手)
4:ホスピタリティー(慰安性)
5:アフォーダビリティー(価格妥当性)
6:サステナビリティー(接続可能性)
7:エキスパンダビリティー(拡張性)
8:パーティシペーション(参画性)
9:エステティック(審美性)
10:ジャパンバリュー(日本的価値)
なるほど、こうして定義されると漠然としていた「ユニバーサル感」のカタチがみえてくる。
赤池自身の経験から、「ユーザビリティ」に関して、ユーザーテストの大切さを強調していた。デザイナーがこれでベスト、と思っていてもユーザーは必ず思いもかけない操作を試みるという。だからこそユーザーテストは大切であり、しかもそのユーザーは商品開発に参加したという意識をもち、口コミで商品の宣伝までしてくれるのだから時間と費用をかけるメリットは、ある。これが「パーティシペーション」だ。
買ったあとも消費者と商品のストーリーが続いていくようなものも意識して作っていく価値観だという。これは「エイジング」を含めた概念なんだろう。ジーンズが良い例で色落ちを楽しんだりするのはよく知られている。ジーンズの場合は「商品⇔個人」の時間だが、赤池のいうものはもっと広くとらえて「環境・他者⇔商品⇔個人」というイメージなんだろうな。商品を媒介としたデザイン。
こうしたデザインには「五感」と「愛着」というキーワードが欠かせない。「五感」すべてに訴えるようなデザインは、たいがい「愛着」を生みだす。ハード・ウェアとソフト・ウェアの時代からセンス・ウェア(Sense ware)の時代へとシフトしているのだ。
さらに「ソシアル・ウェア(Social ware)」という言葉も定義された。公益性を考えて作られた商品ということだ。エコであること、安全・安心であることが重要な付加価値になる社会意識がさらに根付いていけば、これからも伸びる分野であることは間違いない。
エコであることがカッコイイという意識もだんだんと浸透してきている現状があるので、今後に期待だ。
キッズ・デザインに対する姿勢も熱い。キッズ・デザインを考えることがユニバーサル・デザインになるのだという。これは今までには気がつかなかった視点だった。
赤池らしいのは、人間なんかよりもはるかに長い歴史をもつ「自然界の成功者:昆虫」にデザインのカタチを学ぶという方法だ。厳しい自然環境に適応して生き残った昆虫のフォルムや生態をデザインに取り入れていくという考え方は確かに合理的だと思う。
そして障害者にたいしての見方もおもしろい。障害者をマイナスとしてみてデザインするのではなく、プラスとしてデザインしていく価値の転倒。まさにフラジャイル・デザインとでもいうようなことだ。赤池は「バリア・バリュー」と呼んでいたが。
バリア・フリーが障害者をマイナスとしてとらえたデザインならば、バリア・バリューはプラスのデザインだ。個人的には「バリア・プレミアム」といったほうがしっくりくるように思う。
全体を通して、デザイン戦略のなかでも「プレミアム戦略」に近い印象を受けた。
作る側のこだわりやミッションがあり、製造プロセスには共感を呼ぶストーリーがある。
こだわりゆえに大量生産もできないだろうし。
プレミアム・デザインの考え方としても参考にしたい。