日常

『「いき」の構造』

日本の独特な感覚「いき」を客観的に構造化する試み。あいまい性のある日本文化を文章で構造化するのはかなり難しいだろうと思うが、こうして「いき」の構造をとらえることができれば意識して「いき」という表現方法を使うことができそうだ。
「いき」をどのように英訳するかを考えると分かるが、まず該当する単語を見つけるのは不可能だ。他の言語にだって訳すことはできない。これは、「いき」だけではないし、英語にだって日本語訳できない単語はある。
社会の特殊な現象に関する語は多国語に意味の上での厳密な対当者を見いだすことはできないのだ。
「いき」とは一体どういう状態を言うのか、まず心理的な面を考察している。特に面白いのは、3つの特性にわけて「いき」を説明しているところ。
「いき」
1:媚態
2:意気地
3:諦め
これらから構成されているようだと著者はいう。
本書を読めば、なるほどと思える解説が続くが、もちろんこれだけが正しいとは思えない。文化的な背景を背負う単語だけに、言葉では説明のつかない微妙な感覚はあるだろうし。
心理的なものではなく、具体的にはどういう状態をいうのかについても説明されている。こちらのほうが実践的で参考になった。
簡単にまとめてみる。
ふるまいについて
・一語を普通よりもやや長く引いて発音し、急に抑揚をつけて言い切る。
・姿勢を軽く崩す。
・中央の垂直線が曲線への推移において非現実的理想主義を自覚する。
・薄物を身に纏う。
・姿がほっそりして柳腰である。
・眼と口と頬に弛緩と緊張がある。
・一元的平衡を軽妙に打破して二元性を暗示する。
しつらいについて
・二元性の最も純粋な視覚的客観化、平行線を使う。
・ヨコ縞よりもタテ縞。
・縞が適宜の荒さと単純さとを備えて、二元性が明晰に把握されることが肝要。
・無関心性、無目的性が視覚上にあらわれていなければならない。
・一般に複雑な模様は「いき」ではない。
・一般に曲線を有する模様は、すっきりした「いき」の表現とはならない。
・幾何学的模様に対して絵画的模様なるものは「いき」ではない。
・雑多な色取りをもつことは「いき」ではない。
・「いき」な色彩とは、灰色・褐色(茶色)・青色の三系統のいずれかに属する。
・二元性が「いき」を構成する主要な要素。
こうして、具定例もあげてまとめられると気持ちが良い。なんとなくでも感じていた「いき」が、いくらかイメージできるように頭のなかが構造化された。
ただ、これが絶対ではなく参考に留めることがいいように思う。日本文化に根ざした感覚だけに、自分の日本人としての直感も信じていいだろうから。
「いき」を表現する場面では、積極的に使うことができる方法がつまっている。