日常

「100%写植」

日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が、活版からインタラクションデザインまで「文字」文化全体に対しての知識や考えを深めることを目指して、特別セミナー「文字の先(さき)と端(はし)」を開催する。8月、9月、12月の全3回に分かれているらしい。
その第1弾として8月講座「活版/写植/電子組版」を8月3日〜5日に東京ミッドタウン・デザインハブで行われるということで参加してきた。
3日は仕事が忙しくて参加できなかったのが残念だけど、4日の「写植」についての講義から参加できた。
今ではなじみのない写植という技術。ただ、70〜80年代当時は画期的な技術だったようだ。それまでは「活版」というスタティックでハードな印刷技術だったものが、写植ではソフトで文字のエッジも柔らかい自由な組み版が可能な技術が登場したのだから、デザインの自由度は飛躍的に向上したわけだ。
デザイナーがイメージする文字組がほぼ再現可能な環境になったのだから、その衝撃はすごいんだろうな。
今のDTP環境ではもはや当たり前のようにできてしまうことも多いから、あくまでその衝撃は想像するしかないけど。
デザイナーの原研哉も会場にきていた。原が写植について語ったイメージが印象的で、「生きた動物の毛皮」を写植に例えていた。
写植の文字組はオペレーターが1文字1文字の字間を調整していたという。つまり、1文字1文字の字間が違う。動物の毛も1本1本の生えている方向が微妙に違うから、触ったときの感触があれほどいいのだ、と。
写植で優秀なオペレーターに仕上げてもらった原稿はまさしく「生きた動物の毛皮」なのだという。1文字にたいする字間設定が最適なものになっているからこそ、それは美しいのだ。
これは、もう職人技。
モニタで常に仕上がりを監視しながらデザインしていく現在とは違って、写植は作業中の文字組仕上がりを確認できない。銀塩写真と原理は同じなので最後に印画紙に感光させて現像するまでは、現物をみることはできないからだ。オペレーターとデザイナーは、頭の中に仕上がりをイメージさせてツメていくわけだ。
それでいて仕上がったものは、イメージしていたものとピッタリ同じになるというのだから、そのイメージする力というものはハンパじゃない。
今のデジタルな文字は直線的でクッキリしているから、デザイナーの中には、ソフトエッジな写植を一部に用いるようなこともしているのだとか。
時代の流れで、もう写植に戻ることはないだろうと思う。すでに技術者も高齢化しているらしいし、仕事も激減しているそうだ。一部のデザイナーとコミックの文字組にはまだ需要があるというけど、この先どこまで写植という技術が残っていくのか。
ノスタルジーなどではなく、写植の良さをもう一度確認して、これからデジタルなものとどのように共存していくのか、それともデジタルが写植のいいところを取り込んでいくことになるのか、しばらく試行錯誤が続きそうだ。
自分自身でも、方法の継承を考えなくては。