2006年のTAKEO PAPER SHOW「UNBALANCE/BALANCE 紙のバランス。人のアンバランス」をまとめた書籍。市場に出回っている紙は、コストや利便性などあらゆる意味でバランスされている。それを分母に市場にはないアンバランスだけど魅力的な紙の使い方が、デザイナーによって提案された。
紙というバランス
紙は「パリパリ」「ふんわり」「スケスケ」「ツルツル」「ザラザラ」という特性をあらわすキーワードでざっくりと分けられている。
こうした紙の特性は、紙をつくるプロセスの微妙なコントロールにあるのだとか。例えば辞書に使われている紙には「薄くても強度があり、裏面にも透けないこと」が求められ、パルプの割合や添加剤のバランスの上に現在の辞書用紙が成り立っている。今後、これ以上の進化はないだろうというほど完成形に近いのだという。
どのようにして紙の特性を実現しているのかという解説が各キーワードの章にあり、該当する紙を使った牛乳パックやクラフトテープといった市場の製品を紹介するという構成は読みやすく理解しやすいだろう。
サンプルの紙も章の頭に挿入されているので、触って確認できる点もうれしい。
用途にあった紙を創り出していく技術の繊細さが感じられるだろう。
アンバランスというバランス
本書後半は、今回のTAKEO PAPER SHOWに参加したデザイナーごとに章が区切られて、各キーワードに対してのデザイナーの製作意図をまとめて読むことが出来る。
紙のことに限らす印象に残った言葉を羅列してみる。デザインに対する姿勢が違うところがやはり興味深い。
・使っていくうちに変化するのも紙の面白さ。
・あまりにも慣れてしまって当たり前になっているんだけど、ああ、これって本当は面白いよねとか、それをいかに再発見できるかということ。
・手触りだけでなく目触りも大切にしたい。
・紙は事象と人間の体と脳の関係の間にある。
・イメージの計測はそれぞれに違っているからこそ面白い。
・見てきれいだとか使ったときにいいと感じるとか、直感的に良さが伝わるのがいいデザイン。
・リニューアルとは、これまでのバランスを崩すことでもあり、その都度新しいバランスを作っていくことも求められます。
デザインの中でも特にグラフィックデザインは「視覚のデザイン」と思われがちだけど、視覚と同じくらい触覚も大切なものだし、効果的に使うことでデザインの魅力も格段に違ってくることがわかる。
注意したいのは、今回のキーワードが絶対ではないということ。「ツルツル」と「ザラザラ」の境界線は人によって違うだろうし、「スケスケ」と「パリパリ」の両方の特性を併せ持った紙だって当然存在する。感覚は複合的なのだから、まずは自分の感覚を信じてデザインに活かすのがよさそうだ。日頃から視覚だけではなく触覚などの感覚も磨く必要があるだろう。
ひとつのガイドラインとして本書をとらえて、どうやって自身のデザインに活かしていくかを考えてみたい。