日常

『DESINING DESIGN』


前著『デザインのデザイン』をもとに英語版の作品集を兼ねた書籍がある。『DESINING DESIGN』という。それはそもそもが英語版だったため、残念ながら日本語書籍はない。それが今回日本語版として発売された。本書だ。逆輸入という形になっているのが妙。
前著に大幅な加筆修正を加え、さらに図版もたっぷりの内容。もととなった『デザインのデザイン』は、230ページあまりだが、本書はその倍460ページをわずかに超えるほどのボリューム、ものすごい力のいれようだ。
原がこれまで行ってきた展覧会をベースとしたデザイン活動を振り返り言語化していく様は、読んでいて気持ちが良い。原研哉を尊敬する者としては、そのデザインのベースにある考え方を知ることができる本書は貴重だ。
以下、単純に気になるポイントを抜き出す。
この言葉をみれば、デザインに対する深い考え方がわかる。このような思考を軸としてデザイン活動をしているのかと思うと、生み出される質にも納得がいく。
言葉に圧縮された強烈な意志を感じることができるはずだ。
多少長いけど、これでもほんの一部。
・既知のものを未知化することもまた創造である。
・よく知っていると思っているものほど、それについて分かっていない。
・単なる「刺激」をデザインしていた過去に別れを告げて、「日常」に澄んだ目を向けてみることが新たなデザイン思考を生み出していく。
・人間が暮らすことや生きることの意味を、ものづくりのプロセスを通して解釈していこうという意欲がデザイン。
・日用品というのは長い歴史の中で磨かれてきた熟成のデザイン群であり、いかに今をときめくクリエーターであろうと、短時間でこれを乗り越えることは難しい。
・アフォーダンスとは、行為と結びついているさまざまな環境や状況を、総合的かつ客観的に観察していく態度。
・デザインという概念は、感受性や合理性に近接した位置にはじめから立っている。
・身近になにげなくあるものに、本当に強靱なデザインが潜んでいる。
・形や色、素材やテクスチャーを操作するのはデザインの重要な一側面だが、デザインにはもうひとつ重要な「いかに感じさせるか」という側面がある、「感じ方のデザイン」というステージ。
・デザインは受け手の脳の中にイメージの建築を立てること。その建築の材料は、外からやってくる刺激だけではなく、その刺激によって呼び覚まされる膨大な記憶である。ここでは、呼び出された記憶と、現実との間の微妙なずれと一致が演出されている。
・感覚は常に脳の中で融合され、連結され解け合っている。
・「センス・ドリブン」。テクノロジーでなく、感覚の希求を起点としてものをつくること、つまりものづくりのモチベーションを人間の感覚の側に置くというあり方。
・「センスウエア」、常に人間の近くにあり、感覚を鼓舞する媒質。
・サインは本来、誘導の機能を持った単なる「指示」であるが、それが空間に存在する以上はなんらかの物体であることを逃れられない。
・情報と個人の関係を冷静に洞察するならば、情報をいかにじっくりと味わえるかというポイントが重要。
・デザインとは差異のコントロール。必要な、最小の差異のみで意味の編み物をしている。
・白は単に色ではない。それはひとつのデザインコンセプト。
白いと感じる感受性が白さを生んでいる。白いと感じる感じ方を探る。
・色は、視覚的なものだけではなく、全感覚的なもの。
・伝統色とは、色のとらえ方や味わい方が「色の名」という言葉として文化の中に貯えられてきたもの。
・白はあらゆる色の総合であると同時に無色であり、間や余白のような時間性や空間性をはらむものであり、不在やゼロ度のような抽象的な概念をも含んでいる。
・日本は、アジアの東の端というクールな場所から世界を眺め続け、豪華さや派手さではなく簡素さの中に人間の理性を惹きつけてやまない美意識を築いてきた。
・「EMPTINESS」メッセージではなく空っぽの器を差し出し、むしろ受け手の側がそこに意味を盛りつけることでコミュニケーションが成立する場合もある。
・よくできたブランド広告は、解釈の多様性を受け入れる求心力が核として存在し、それを好む人たちによってそこに様々な期待や思いが盛りつけられる。
・簡素の美とは、究極のシンプルを表現し、そこにイメージや意味を呼び込むことでコミュニケーションをはかる手法。
・最小限であるからこそ、わずかな演出で最大のイメージをそこに生み出す。
・未来が存在すると同時に莫大な文化的蓄積が過去にはあり、自分にとってはそれも未知なる資源である。
・冷静で的確なデザインの運用は、商品の競争力や企業のコミュニケーション効果を飛躍的に向上させる。
・ブランドは架空にできあがるものではなく、やはりその基盤となる国や文化の水準を反映している。
・グローバルな視野を持てばこそ、むしろ世界に向けてローカルであるべき。世界を知り、そして自然にオリジナルであればいい。
・デザイナーとして日本の近代史を振り返ることは、分裂した文化や感受性を想像することでもある。
・世界を相対化する中で、自分たちの美点と欠点を冷静に自覚し、その上でグローバルを考えていく。
・「異国文化」「経済」「テクノロジー」という世界を活性化させてきた要因と、自分たちの文化の美点や独自性を相対化し、そこに熟成された文化圏としてのエレガンスを生み出していくことを、これからははっきりと意識する必要がある。
・器は空っぽであるからこそものを蔵する可能性を持つわけで、未然の可能性を持つことにおいて豊かなのである。
・世界の文化の文脈の中で日本の優位点を把握した上で、それを堂々と現代化し、運用する。
・デザインは何かを計画していく局面で機能するもの。
・いつも人の心を魅了するのは、未知なるものである。既に知っているものに人はときめかない。
・答えよりも問いが重要。
・何かを知ることはイマジネーションのスタートであってゴールではない。
・いかに知らないかが把握できれば、それを知る方法はおのずと見えてくる。
・身近なものの「大きさや肌理の記憶」は未知なるものの大きさや形状を類推するための「ものさし」として機能する。
・先に未来はあるが、背後にも膨大な歴史が創造の資源として蓄積されている。両者を環流する発想のダイナミズムをクリエイティブと呼ぶのだろう。
・デザインとは、ものづくりやコミュニケーションを通して自分たちの生きる世界をいきいきと認識することであり、優れた認識や発見は、生きて生活を営む人間としての喜びや誇りをもたらしてくれるはず。
・デザインとは感覚を覚醒させ世界を感じ直していくこと。
・コンピュータは道具ではなく、素材である。
・テクノロジーの進歩がプロダクツやコミュニケーションに新たな可能性を示すたびに、デザインはそこに最適な答えを探し当てていく役割を担っている。
・新規なものをつくり出すだけが創造性ではない。見慣れたものを未知なるものとして再発見できる感性も同じく創造性である。
・形や素材の斬新さで驚かせるのではなく、平凡に見える生活の隙間からしなやかで驚くべき発想を次々に取り出す独創性こそデザインである。
・新たなテクノロジーがこれまでのものにとって替わるのではなく、「旧」が「新」を受け入れ、結果として選択しが増える。「新」にすがることではなく、手にした選択肢を冷静に分析する態度が必要だ。つまり新旧のメディアのいずれにも偏ることもなく、それらを横断的な視野に入れ、縦横に用いていく職能がデザインである。
・生活の中から新しい問いを発見していく営みがデザイン。