著者の松田行正のデザインが好きで、この本を手にとった。隔月誌『デザインの現場』での連載記事42本を再構成し手を入れたもの。理論的に書かれている。
サブタイトルに「デザインの道具箱」とあるように、デザインに関係してくるであろう要素を因数分解的に語っている。
西洋と日本の美学を図式的に言っているところなどおもしろかった。
西洋は、石造建築が中心なので基本がスタティック、「面の美学」。
日本は、木材を組み合わせて骨格からつくる日本建築は線的、「線の美学」。
そして、日本文化の特徴は、垂直よりも水平、縦よりも横を好むらしい。腰掛ける文化の西洋に対して座る文化だから視点は下がり、「見上げる」よりも「見渡す」という動きが刻まれているのかもしれない。建築様式にそれは反映されていると思う。縦に空間が広がる西洋。イギリスにいったときに観た様々な教会などはその典型だったな、今考えてもやっぱり「縦」だ。伝統的な日本家屋は、正座したときに部屋や庭を観たときに空間の広がりが感じられるような造りになっているんだとか。日本の縦横模様史では、横はノーマル・縦はアブノーマルな感じがあるそう。
著者らしいと思った記述は、
「ルール、ディレクションは多ければ多いほど楽しい」
というもの。
制限された環境であるほど、クリエイティブな発想がうかぶというアレだ。
デザインは、納期、予算、メディアなどそれだけですでにルールがあり、さらにブランディング・マニュアルに従い、インフォメーションすべきテキストははずせない。もう、がんじがらめ。「さあ、好きなように表現しなさい」ということはありえない、そもそもそれはアートだ。
そーいえば、子供のころの「自由作文」という、まったく自由に書きなさいにはてこずった覚えがあるなあ。この「自由にやれ」っていうのは、たしかにおもしろくない。「この制限の中で、いいものをつくれ」と言われたほうが燃える。
思い切ったとらえ方が気持ちいいのも、著者ならではなのかも。
「人類はあらゆるものを”封じ込める”ことで知を凝集させるという戦略で文化を形づくってきた。」
デザイナーとしてのこだわりもちらりと見えたりする。
「デザイン上で扱う数値も小数点以下第2位、100分の1まで制御するのはデザイナーの基本である」
「美しい書物はディテールへの執着でできあがっている。」
テンポよくサクサク読める本。図版もカラーがほとんど。