日常

『宇宙のエンドゲーム』

夕方青空

宇宙の始まりから終わりまでを科学的な根拠に基づいて綴った一大巨編といっていい。宇宙の一生を5つの時代に分けているのでとっつきやすい。
1:原始の時代
2:星たちが輝く時代
3:縮退の時代
4:ブラックホールの時代
5:暗黒の時代
宇宙の年表を描こうという試みは、膨大な時間を記述していくということ。そこで、「宇宙年」という考え方をとりいれている。この考え方が分かりやすく面白い。
宇宙の一生を扱うには「10の100乗年」という時間を記述しなければならない。これは1のあとに0が100個も続くことになる。正直に0を並べたところで煩わしいし、ピンとこない。例えば、世界中の海岸の砂浜の砂粒は概算で10の23個、観測できる全宇宙の物質をつくっている「部品」である陽子の数は10の78乗個とこれもまだ小さく宇宙年齢との比較には使えない。
そこで、「宇宙年」の登場だ。「10の●乗年」の●をそのまま年齢として扱ってしまえ、というなんとも分かりやすい発想。「10の100乗年」なら「宇宙は100歳になった」ということ。なるほどなと思う。
これで、5つの時代を記述すると、
1:原始の時代(-50歳~5歳)
2:星たちが輝く時代(6歳~14歳)
3:縮退の時代(15歳~39歳)
4:ブラックホールの時代(40歳~100歳)
5:暗黒の時代(101歳~)
これでグンと身近なスケールになった。
生まれてから膨張しているこの宇宙、
最終的にどうなるかというと、
まだはっきりしないそうだ。ただ、3つのシナリオが想定されていて、宇宙の状態によって決まる。
1:開いている→永遠に膨張し続ける
2:閉じている→最終的に膨張をやめて、再び潰れる。
3:平らである→膨張の勢いは弱まりつつ完全な停止へと向かう。
現在わかっている範囲では「閉じる」可能性は低いようだ。
物理法則に従ってこうした予測をたてているとある疑問が浮かんでくるらしい。
「なぜ、この宇宙は結果的に生命を生じさせる性質を持っているのか」
なかなか哲学的。それというのも、物理法則が、生命の存在を可能にするのに、ちょうどピッタリ合っているのは、目をまん丸くするほどの偶然のことなのだとか。
20世紀の科学が「What」を問うものだったなら、21世紀は「Why」を問う。
この問いに対する科学的な解答がいろいろと考え出されているところらしいけど、それがまたおもしろい。下手なSFなんかよりもエキサイティング。
パラレルワールドというSFでは有名な話。並行(平行)世界、いまのこことは、ほんのわずかに違う世界が存在しているという考え方だ。この宇宙は、それぞれの物理法則のヴァリエーションをもつ宇宙の大きな集合である多宇宙(マルチバース)の一つの小さい部分にすぎない。その多くの宇宙のうち、妥当な物理法則をもつ宇宙だけが生命を育むことができただけにすぎず、とくに不思議なことはない、というちょっと開き直った考え方。
くり返すけどこれはSFではなく、科学的な理論に組み込むことができるという。
そして、もうひとつ。
「宇宙をダーウィン的に考えてみる」
宇宙の時空は、宇宙が歳をとるにしたがって、徐々に複雑になる。そのプロセスからブラックホールが生み出される。原理的にブラックホールの特異点は、他の宇宙への連絡路にもなる。特異点で他の宇宙の核が形成される可能性がある。その場合、この宇宙はブラックホールを通して新しい宇宙とつながる。つまり宇宙が宇宙を誕生させる。ここでダーウィン的な考え方ができる。遺伝、突然変異、自然淘汰といった概念が物理理論にも登場すると予想することができるという。子どもの宇宙は、親宇宙から、一連の物理法則をブラックホールを通して受け継ぐが、地球上の生物相の生殖に伴う突然変異によく似て、その法則は多少違ってくる。
この仮説は初めてきいた。なんともデカイ話だ。
ここまでのことが予想できるなんて、これが科学の力なのか。
たかが100歳くらいまでしか生きることのできない人間が、
ここまでのスケールを扱えるのもスゴイんでないの。