「プレミアム」が気になっていた。ビールにはじまり、各分野で高級や特別を名乗る商品が多く目に付くようになっていたからだ。しかもけっこう売れているし、自分でもいくつか買うようになっているし。
プレミアムの氾濫は消費社会が成熟を迎えた今、これまでの大量消費とはまったく違う方向性をもって登場してきたのだとか。本当によいものを選び、大切に使いながら、生活を豊かにするという生産・消費社会へと移行する社会の流れがきているそうだ。これはエコブームも合わさっての動向だろう。
ビールやアイスクリームにもみられる通り富裕層だけのものではない。広く一般的な消費者にも広がっているのは明らかだ。
本書にもあるが、こうしたプレミアムは海外ブランドが多数をしめているのは明白。それは日本企業の主戦場が「中」や「中の上」を得意としているからで、ビジネス・モデルはまったくの別物だからだ。今の日本はまだまだ不得意の分野といってもいい。
とはいえ、よくよく考えてみると「日本プレミアム」も虎屋、千疋屋を始め、皆無ではない。
特に日本の伝統技術は世界でも優秀なのは周知の事実。それがなぜプレミアムという「究極の際立ち」を獲得できていないのか。著者は四つの壁を想定している。
1:舶来信仰
2:「御用達」制度の廃止
3:大量生産・大量販売という産業政策
4:デザイン性より機能性重視の思想
そして決定的な要因は、日本の作り手にあるのだとか。作り手が自らの欲望をさらけだし、その欲望に忠実に自分ならではのこだわりを極めていくことが足りないのだ。
一方の消費者はどうか。日本の消費者は、目の肥えた消費者だという。具体的には、比較的価値の低い生活必需品、最寄品においても、価格が割高でも質が高く、自分にあった商品やサービスを選ぼうとする、つまり「自分のものさし」で高級や本物を求めようとする特徴がある。
こうした消費傾向は、成熟消費社会の特徴でもあるようだ。自分も確かにそうした行動をとることもある。
おもしろいのは、同時に低価格商品も定着しているということ。どうやら日本の消費者は「こだわる消費」と「こだわらない消費」を使い分けているらしい。
高級品と低価格品が売れて、中間価格帯の商品は苦戦しているのだ。
プレミアムには二つの動向があるようだ。
●ちょっとプレミアム
日常的に購入し、消費する最寄品であっても「自分らしさ」にこだわり、より上質なものや本物を日常生活の中で楽しもうとする傾向。
●アイデンティティ・プレミアム
「自分らしさ」をモノに置き換えてわかりやすく表現するための消費行動。
どちらのプレミアムであろうとも、「世間の評価」という客観的なものさしではなく、「主観」という自分の価値基準で選ぼうとする「大人の消費者」が増えているということがいえる。
プレミアムを構成する要素も考察されている。
●機能的価値
●情緒的価値
この二つの価値が圧倒的に高いものこそがプレミアムだといえるようだ。
機能面での上質感はもちろん必要だが、それに加えて作り手のこだわる姿勢に共感できるかどうかの情緒面も必要だ。作り手がこだわるからこそ大量生産ができない、お金さえあれば誰でも手に入れられるラグジュアリーとはまさしく「格」が違う。
作り手の主観から生みだされる尖った商品は、万人にたいして価値はないが、特定の価値観を持つ一部の人に強烈にアピールし、プレミアムとなるのだ。だからこそ、真のプレミアムは国や文化の違いを超えて通用する、つまりはプレミアムは無国籍なのだ。異常なまでにこだわったローカルな商品がグローバルにもなりうる。
プレミアムを考えるとき、日本の企業は大量生産・大量消費の時代の考え方を変えなければならないとも訴える。それは以下のようなものだ。
1:「たくさん売ろう」としないこと
2:「カスタマー」ではなく「ファン」を作る
3:「マーケティング」でなく「ストーリー・テリング」
作りすぎから、プレミアムは絶対に生まれないし、
すべての人にアピールするプレミアムは存在しないということだ。
こうした下地ができたうえで、著者が日本企業に対して以下を提言している。
1:本物の「職人」を育てる
2:「ストーリー・テラー」を育てる
3:上場にこだわらない
4:仕事に「ゆとり」を
5:「できる」と信じる
具体的なプレミアム戦略として「八つの原則」もあがている。
1:「作り手の主観」こそがプレミアムの命
2:常に「モダン」でありつづけること
3:派手な広告・宣伝はしない
4:飢餓感・枯渇感を醸成する
5:安易な拡張は行わない
6:販路を絞り込む
7:細部にこだわる
8:グローバルをめざす
差別化された独自の価値を持たないブランドは、消費者が「無視する」対象でしかない今、もともと大量生産的ではない日本の伝統文化・技術は「プレミアム」を戦略的に使うチャンスがあるように思う。
時間はかかるかもしれないけど、目指すべき方向のひとつだろう。