日常

「東方式 / 東アジア文字宇宙の知られざる法則」

9月15日、先日の「西方式」に引き続き「東方式」のセミナー。
スピーカーは、東アジアの文字の歴史を俯瞰する試みを続けている小磯祐司。
小難しい歴史的背景よりも、グラフィカルに歴史を観ていく方法が際だつ話だった。
そもそも「デザイン」という概念は、西欧的スタンダードで語られることがほとんど。しかもグローバル・スタンダードが推し進められる現在の状況から「東アジアのデザイン」の特色もうやむやになっていく可能性もある。そこで、東アジアのデザイン・ルール「東方式」を「文字」を中心に考えてみるというアプローチの一端がこのセミナーで披露された。
ざっくりと東アジアというくくりには共通する文化意伝子をもつ文明世界があるという。その意伝子とは「漢字」だ。その漢字の成り立ちを歴史的に見ると、書字と刻字の系譜がある。その二つの流れを受け継いだ究極の典型として「楷書」があるのだという。
縦長の「篆書」から、横長の「隷書」へと移り変わり、水平に広がった横画が右上がりになると「楷書」のカタチになるのだという。カジュアルなものはナナメに書き、公式なものは水平に記述されたようだ。
基本的に東方は縦書きだから横画が大切で、西方は横書きなので縦が重視されたらしい。
文字をグラフィカルに観ていくと、字面のゆがみが現代に近づくにしたがって正方形に近くなってきているという。つまり典型であった「楷書」の三次元的ゆがみがなくなり、平面になってきているというのだ。
漢字の始まりは平面的な文字だったものが、王羲之の時代にしだいに三次元的なゆがみを獲得して定着した「楷書」が近代の「明朝体」に近づくにつれて、再度平面化しているらしい。
これはおもしろい指摘。今までこんなふうに文字を観るなんてことは聞いたことがなかったし、実際にグラフィックで見せてもらうと確かに文字から立体感がなくなっている。
さらに興味深いのは、日本の名だたる書家が書いた「楷書」は、典型であるはずの「楷書」に比べて立体性に欠けている事実だ。
中国のそれに比べて、日本人が楷書だと思っている文字にはすべてに立体感が感じられない。日本人は、立体的なタイプフェイスは理解できないのかと疑いたくなるほどだ。
対して、中国人の書家が書くものには、立体感を見て取ることができる。やはり日本の楷書には立体感がない。
現在の日本では典型的な立体感のある楷書は意識されていないのではないかと思われるほど、日本では典型的な楷書を見ることはできないそうだ。
そして今、隷書が再び使われ始めているという。字面が扁平で開き気味の「隷書」は、どことなくゴシック体に近いような感じがしなくもない。だから比較的なじみやすかったのだろう。
これからの傾向として、字面はさらに正方形めざして広がっていくだろうと予想していた。ゴシック体も明朝体も含めてだ。
もっとおもしろい解釈がある。
明朝体の「ウロコ」だ。アレは書体が水平であるためのバランサーではないか、というのだ。
明朝体は、実は典型的な楷書のような右上がりの字体になりたい。しかし可読性やら運用面を考えると水平であることが望ましい。そこで「ウロコ」の登場だ。ウロコを文字の右端に乗せて水平性を保っているのだ。
これはおもしろいし、下記のサイトでムービーをチェックするとなにやら納得してしまう。こうしたグラフィカルな文字の見方があってもいい。
この正方形グリッドのゆがみを手がかりとした書体検証は、なにか可能性を感じさせてくれた。このグリッドをいじることで新書体への取り組みなどできるだろうし、漢字書体に対する認識を今までとは違う角度で構築できるはずだ。
今後の展開にも期待しつつ、自分でも応用も考えていこう。
日本デザインセンター小磯デザイン研究室