日常

「デザイン漬け」

5月26日、青山ブックセンターにて
深澤直人の作品集『NAOTO FUKASAWA』刊行記念対談があった。
ゲストは、本書をデザインした原研哉。
なんとも豪華な対談だ。
作品集とはいえプロダクトをジャンルごとに整理して解説したものとは大きく違うようだ。
「深澤直人のデザイン概念集」のようなものだった。本の構成がそれを示していて、目次が「デザインの概念・方法」でできている。
一部だけざっと拾い出してみる。
【考えない】
無意識のうちに人がやってしまうことをくみ取ってデザインに活かしていくという方法。
無意識の行為をうながすデザインとでも言おうか。アフォーダンスというキーワードが潜んでいる。
【輪郭】
輪郭を削りだすのか、輪郭が浮き上がってくるのか、というデザイン方法の違いを語る。
前者は彫刻のような、オブジェクトを作り込んでいくというもの。
後者は、構成エレメント(物質に限らず)を考えて突き詰めていくと、
あるべき形が見えてくる、というもの。サブジェクトを重視する。もちろん深澤はこちら。
【不完全な完全】
【操作を含んだ価値】
形だけではなく、その操作、行為を含めて評価し、価値と考える。
そう考えるだけで、デザインの幅はかなり広がるだろうな。
コンセプトによっては、ローテクを駆使することにもなる。
【現象を見せる】
【感触の記憶】
【幸せの形】
【なにげなく使うこと】
【整頓されないように】
【思ったままの形】
深澤デザインは「シンプル」「ミニマル」というような印象が強い。
ただし、実際にはその形の奥には、上にあげたデザインの概念がつまっている。
つまりシンプル、ミニマルな形は結果としてそうなっただけ。上記のようなデザインの概念を受け入れることができる最も自由度のある形が「シンプル」「ミニマル」だと自身で語った。
今回、こうした「デザインの概念」を書籍として形にするときに原が使った方法は、グリッドシステム。どんなものでも、どんな表現でも受け止めるベースとして非常に有効な方法だと語った。
それとともに、デザイン概念の解説も大切だけれど、そのデザインを見せるための写真も注目してほしいという。「デザインの機能を語る写真」の撮り方の良い例が多く掲載されているからだ。
それを「多層なエレメントを込めた写真が本書には掲載されている」と表現していた。
深澤は、人が意識していないところを取り出して、デザインに活かしていく方法・分野を発見した人だという原の言葉が印象的だった。とくに深澤デザインを「デザインの分野のひとつ」と捉えているところが、新鮮だった。
深澤自身は、自分のデザインはある状況がくれば誰にでも理解できる、という。人は状況が変わると価値観も変わるので、こういう現象がおこるそうだ。
深澤デザインは、誰もが自身の体に持っているものだからズレはない、とも断言する。
デザインのズレを産むのは、デザイナーの主体がデザインに入ったときだそう。やはりオブジェクト的ではなく、徹底したサブジェクト的な考え方だ。
二人の意見として、「話題になった」「売れた」といったものをデザインのバロメータにしないほうがいい、というものがあった。そうしないとデザインがブレてしまうそうだ。なるほど。
プロダクトデザイナーとグラフィックデザイナー、分野は違うけれどデザインの概念は重なり合う部分がかなりあるように感じられた。
実際、デザインというもの、分野で分けて考えること自体がつまらないように思う。分野別の専門的なスキルは違うかもしれないけど、概念は同じ。そんなことを再確認できた対談だった。